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津波防災地域づくりの推進に関する基本的な指針

  平成24・1・16・国土交通省告示 51号  


津波防災地域づくりに関する法律(平成23年法律第123号)第3条第1項の規定に基づき、津波防災地域づくりの推進に関する基本的な指針を次のように定めたので、同条第4項の規定に基づき公表する。

一 津波防災地域づくりの推進に関する基本的な事項
1 津波防災地域づくりの推進に関する基本的な指針(以下「津波防災地域づくり基本指針」という。)の位置づけ
 平成23年3月11日に発生した東北地方太平洋沖地震は、我が国の観測史上最大のマグニチュード9.0という巨大な地震と津波により、広域にわたって大規模な被害が発生するという未曾有の災害となった。「災害には上限がない」こと、津波災害に対する備えの必要性を多くの国民があらためて認識し、最大規模の災害が発生した場合においても避難等により「なんとしても人命を守る」という考え方で対策を講ずることの重要性、歴史と経験を後世に伝えて今後の津波対策に役立てることの重要性などが共有されつつある。
 また、東海・東南海・南海地震など津波による大規模な被害の発生が懸念される地震の発生が高い確率で予想されており、東北地方太平洋沖地震の津波による被災地以外の地域においても津波による災害に強い地域づくりを早急に進めることが求められている。
 このような中、平成23年6月には津波対策に関する基本法ともいうべき津波対策の推進に関する法律(平成23年法律第77号)が成立し、多数の人命を奪った東日本大震災の惨禍を2度と繰り返すことのないよう、津波に関する基本的認識が示されるとともに、津波に関する防災上必要な教育及び訓練の実施、津波からの迅速かつ円滑な避難を確保するための措置、津波対策のための施設の整備、津波対策に配慮したまちづくりの推進等により、津波対策は総合的かつ効果的に推進されなければならないこととされた。また、国民の間に広く津波対策についての理解と関心を深めるようにするため、1854年に発生した安政南海地震の津波の際に稲に火を付けて暗闇の中で逃げ遅れていた人たちを高台に避難させて救った「稲むらの火」の逸話にちなみ、11月5日を「津波防災の日」とすることとされた。
 一方、これまで津波対策については、一定頻度の津波レベルを想定して主に海岸堤防等のハードを中心とした対策が行われてきたが、東北地方太平洋沖地震の経験を踏まえ、このような低頻度ではあるが大規模かつ広範囲にわたる被害をもたらす津波に対しては、国がその責務として津波防災及び減災の考え方や津波防災対策の基本的な方向性や枠組みを示すとともに、都道府県及び市町村が、津波による災害の防止・軽減の効果が高く、将来にわたって安心して暮らすことのできる安全な地域づくり(以下「津波防災地域づくり」という。)を、地域の実情等に応じて具体的に進める必要があると認識されるようになった。
 このため、平成23年12月、津波による災害から国民の生命、身体及び財産の保護を図ることを目的として、津波防災地域づくりに関する法律(平成23年法律第123号。以下「法」という。)が成立した。
 津波防災地域づくり基本指針は、法に基づき行われる津波防災地域づくりを総合的に推進するための基本的な方向を示すものである。
2 津波防災地域づくりの考え方について
 津波防災地域づくりにおいては、最大クラスの津波が発生した場合でも「なんとしても人命を守る」という考え方で、地域ごとの特性を踏まえ、既存の公共施設や民間施設も活用しながら、ハード・ソフトの施策を柔軟に組み合わせて総動員させる「多重防御」の発想により、国、都道府県及び市町村の連携・協力の下、地域活性化の観点も含めた総合的な地域づくりの中で津波防災を効率的かつ効果的に推進することを基本理念とする。
 このため、津波防災地域づくりを推進するに当たっては、国が、広域的な見地からの基礎調査の結果や津波を発生させる津波の断層モデル(波源域及びその変動量)をはじめ、津波浸水想定の設定に必要な情報提供、技術的助言等を都道府県に行い、都道府県知事が、これらの情報提供等を踏まえて、津波防災地域づくりを実施するための基礎となる法第8条第1項の津波浸水想定を設定する。
 その上で、当該津波浸水想定を踏まえて、法第10条第1項のハード・ソフト施策を組み合わせた市町村の推進計画の作成、推進計画に定められた事業・事務の実施、法第5章の推進計画区域における特別の措置の活用、法第7章の津波防護施設の管理等、都道府県知事による警戒避難体制の整備を行う法第53条第1項の津波災害警戒区域(以下「警戒区域」という。)や一定の建築物の建築及びそのための開発行為の制限を行う法第72条第1項の津波災害特別警戒区域(以下「特別警戒区域」という。)の指定等を、地域の実情に応じ、適切かつ総合的に組み合わせることにより、発生頻度は低いが地域によっては近い将来に発生する確率が高まっている最大クラスの津波への対策を効率的かつ効果的に講ずるよう努めるものとする。
 また、海岸保全施設等については、引き続き、発生頻度の高い一定程度の津波高に対して整備を進めるとともに、設計対象の津波高を超えた場合でも、施設の効果が粘り強く発揮できるような構造物の技術開発を進め、整備していくものとする。
 これらの施策を立案・実施する際には、地域における創意工夫を尊重するとともに、生活基盤となる住居や地域の産業、都市機能の確保等を図ることにより、地域の発展を展望できる津波防災地域づくりを推進するよう努めるものとする。
 また、これらの施策を実施するに当たっては、国、都道府県、市町村等様々な主体が緊密な連携・協力を図る必要があるが、なかでも地域の実情を最も把握している市町村が、地域の特性に応じた推進計画の作成を通じて、当該市町村の区域における津波防災地域づくりにおいて主体的な役割を果たすことが重要である。その上で、国及び都道府県は、それぞれが実施主体となる事業を検討することなどを通じて、積極的に推進計画の作成に参画することが重要である。
 さらに、過去の歴史や経験を生かしながら、防災教育や避難訓練の実施、避難場所や避難経路を記載した津波ハザードマップの周知などを通じて、津波に対する住民その他の者(滞在者を含む。以下「住民等」という。)の意識を常に高く保つよう努めることや、担い手となる地域住民、民間事業者等の理解と協力を得るよう努めることが極めて重要である。

二 法第6条第1項の基礎調査について指針となるべき事項
1 総合的かつ計画的な調査の実施
 都道府県が法第6条第1項の基礎調査を実施するに当たっては、津波による災害の発生のおそれがある地域のうち、過去に津波による災害が発生した地域等について優先的に調査を行うなど、計画的な調査の実施に努める。
 また、都道府県は、調査を実施するに当たっては、津波災害関連情報を有する国及び地域開発の動向をより詳細に把握する市町村の関係部局との連携・協力体制を強化することが重要である。
2 津波による災害の発生のおそれがある地域に関する調査
 津波による災害の発生のおそれがある地域について、津波浸水想定を設定し又は変更するために必要な調査として、次に掲げるものを行う。
ア 海域、陸域の地形に関する調査
 津波が波源域から海上及び陸上へどのような挙動で伝播するかについて、適切に津波浸水シミュレーションで予測をするため、海底及び陸上の地形データの調査を実施する。
 このため、公開されている海底及び陸上の地形データを収集するとともに、航空レーザ測量等のより詳細な標高データの取得に努めることとする。なお、広域的な見地から航空レーザ測量等については国が実施し、その調査結果を都道府県に提供する。これらに基づき、各都道府県において、地形に関する数値情報を構築した上で、津波浸水の挙動を精度よく再現できるよう適切な格子間隔を設定する。
イ 過去に発生した地震・津波に係る地質等に関する調査
 最大クラスの津波を想定するためには、被害をもたらした過去の津波の履歴を可能な限り把握することが重要であることから、都道府県において、津波高に関する文献調査、痕跡調査、津波堆積物調査等を実施する。
 歴史記録等の資料を使用する際には、国の中央防災会議等が検討に当たって用いた資料や気象庁、国土地理院、地方整備局、都道府県等の調査結果等の公的な調査資料等を用いることとする。また、将来発生の可能性が高いとされた想定地震、津波に関する調査研究成果の収集を行う。
 国土交通大臣においては、各都道府県による調査結果を集約し、津波高に関する断片的な記録を広域的かつ分布的に扱うことで、当該津波を発生させる断層モデルの設定に係る調査を今後継続的に行っていくものとする。
ウ 土地利用等に関する調査
 陸上に浸水した津波が、市街地等の建築物等により阻害影響を受ける挙動を、建物の立地など土地利用の状況に応じた粗度として表現し、津波浸水シミュレーションを行うため、都道府県において、土地利用の状況について調査を行い、既存の研究成果を用い、調査結果を踏まえた適切な粗度係数を数段階で設定する。
 その際、建物の立地状況、建物の用途・構造・階数、土地の開発動向、道路の有無、人口動態や構成、資産の分布状況、地域の産業の状況等のほか、海岸保全施設、港湾施設、漁港施設、河川管理施設、保安施設事業に係る施設の整備状況など津波の浸水に影響のある施設の状況について調査・把握し、これらの調査結果を、避難経路や避難場所の設定などの検討の際の参考として活用することとする。

三 法第8条第1項に規定する津波浸水想定の設定について指針となるべき事項
 法第8条第1項に規定する津波浸水想定の設定は、基礎調査の結果を踏まえ、最大クラスの津波を想定して、その津波があった場合に想定される浸水の区域及び水深を設定するものとする。
 最大クラスの津波を発生させる地震としては、日本海溝・千島海溝や南海トラフを震源とする地震などの海溝型巨大地震があり、例えば、東北地方太平洋沖地震が該当する。
 これらの地震によって発生する最大クラスの津波は、国の中央防災会議等により公表された津波の断層モデルも参考にして設定する。
 中央防災会議等により津波の断層モデルが公表されていない海域については、現時点で十分な調査結果が揃っていない場合が多く、過去発生した津波の痕跡調査、文献調査、津波堆積物調査等から、最大クラスの津波高を推定し、その津波を発生させる津波の断層モデルの逆算を今後行っていくものとする。
 上記による最大クラスの津波の断層モデルの設定等については、高度な知見と広域的な見地を要することから、国において検討し都道府県に示すこととするが、これを待たずに都道府県独自の考え方に基づき最大クラスの津波の断層モデルを設定することもある。
 なお、最大クラスの津波について、津波の断層モデルの新たな知見が得られた場合には、適切に見直す必要がある。
 都道府県知事は、国からの情報提供等を踏まえて、各都道府県の各沿岸にとって最大クラスとなる津波を念頭において、津波浸水想定を設定する。その結果として示される最大の浸水の区域や水深は、警戒区域の指定等に活用されることから、津波による浸水が的確に再現できる津波浸水シミュレーションモデルを活用する必要がある。
 なお、津波浸水シミュレーションにより、津波が沿岸まで到達する時間が算定できることから、最大クラスの津波に対する避難時間等の検討にも活用できる。その際、最大クラスの場合よりも到達時間が短くなる津波の発生があることにも留意が必要である。
 津波浸水想定により設定された浸水の区域(以下「浸水想定区域」という。)においては、「なんとしても人命を守る」という考え方でハード・ソフトの施策を総合的に組み合わせた津波防災地域づくりを検討するため、東北地方太平洋沖地震の津波で見られたような海岸堤防、河川堤防等の破壊事例などを考慮し、最大クラスの津波が悪条件下において発生し浸水が生じることを前提に算出することが求められる。このため、悪条件下として、設定潮位は朔望平均満潮位を設定すること、海岸堤防、河川堤防等は津波が越流した場合には破壊されることを想定することなどの設定を基本とする。
 なお、港湾等における津波防波堤等については、最大クラスの津波に対する構造、強度、減災効果等を考慮する必要があるため、当該施設に係る地域における津波浸水想定の設定に当たっては、法第8条第3項に基づき関係海岸管理者等の意見を聴くものとする。
 また、津波浸水想定は、建築物等の立地状況、盛土構造物等の整備状況等により変化することが想定されるため、津波浸水の挙動に影響を与えるような状況の変化があった場合には、再度津波浸水シミュレーションを実施し、適宜変更していくことが求められる。
 津波浸水想定の設定に当たっては、都道府県知事は、法第8条第2項に基づき、国土交通大臣に対して、必要な情報の提供、技術的助言その他の援助を求めることができるとしている。
 都道府県知事は、津波浸水想定を設定又は変更した場合には、法第8条第4項及び第6項に基づき、速やかに、国土交通大臣へ報告し、かつ、関係市町村長へ通知するとともに、公表しなければならないこととされている。
 津波浸水想定は、津波防災地域づくりの基本ともなるものであることから、公表にあたっては、都道府県の広報、印刷物の配布、インターネット等により十分な周知が図られるよう努めるものとする。

四 法第10条第1項に規定する推進計画の作成について指針となるべき事項
1 推進計画を作成する際の考え方
 推進計画を作成する意義は、最大クラスの津波に対する地域ごとの危険度・安全度を示した津波浸水想定を踏まえ、様々な主体が実施するハード・ソフト施策を総合的に組み合わせることで低頻度ではあるが大規模な被害をもたらす津波に対応してどのような津波防災地域づくりを進めていくのか、市町村がその具体の姿を地域の実情に応じて総合的に描くことにある。これにより、大規模な津波災害に対する防災・減災対策を効率的かつ効果的に図りながら、地域の発展を展望できる津波防災地域づくりを実現しようとするものであり、「一 津波防災地域づくりの推進に関する基本的な事項」に示した考え方を踏まえて作成するよう努めるものとする。
 また、市町村が推進計画に事業・事務等を定める際には、都道府県が指定する警戒区域や特別警戒区域の制度の趣旨や内容を踏まえ、当該制度との連携や整合性に十分配意することによって、津波防災地域づくりの効果を最大限発揮できるよう努めるものとする。
 津波防災地域づくりにおいては、地域の防災性の向上を追求することで地域の発展が見通せなくなるような事態が生じないよう推進計画を作成する市町村が総合的な視点から検討する必要があり、具体的には、推進計画は、住民の生活の安定や地域経済の活性化など既存のまちづくりに関する方針との整合性が図られたものである必要がある。このため、地域のあるべき市街地像、地域の都市生活、経済活動等を支える諸施設の計画等を総合的に定めている市町村マスタープラン(都市計画法(昭和43年法律第100号)第18条の2第1項の市町村の都市計画に関する基本的な方針をいう。以下同じ。)との調和が保たれている必要がある。また、景観法(平成16年法律第110号)第8条第1項に基づく景観計画その他の既存のまちづくりに関する計画や、災害対策基本法(昭和36年法律第223号)に基づく地域防災計画等とも相互に整合性が保たれるよう留意する必要がある。
 なお、隣接する市町村と連携した対策を行う場合等、地域の選択により、複数の市町村が共同で推進計画を作成することもできる。
2 推進計画の記載事項について
ア 推進計画区域(法第10条第2項)について
 推進計画区域は、必ず定める必要がある事項であり、市町村単位で設定することを基本とするが、地域の実情に応じて柔軟に定めることができる。ただし、推進計画区域を定める際には、浸水想定区域外において行われる事業等もあること、推進計画区域内において土地区画整理事業に関する特例、津波避難建築物の容積率の特例及び集団移転促進事業に関する特例が適用されること、津波防護施設の整備に関する事項を推進計画に定めることができることに留意するとともに、推進計画に定める事業・事務の範囲がすべて含まれるようにする必要がある。
イ 津波防災地域づくりの総合的な推進に関する基本的な方針(法第10条第3項第1号)について
 本事項は、推進計画の策定主体である市町村の津波防災地域づくりの基本的な考え方を記載することを想定したものである。また、津波浸水想定を踏まえ、様々な主体が実施する様々なハード・ソフトの施策を総合的に組み合わせ、市町村が津波防災地域づくりの姿を総合的に描くという推進計画の目的を達成するために必要な事項である。
 このため、推進計画を作成する市町村の概況(人口、交通、土地利用、海岸等の状況)、津波浸水想定により示される地域ごとの危険度・安全度、想定被害規模等について分析を行った上で、その分析結果及び地域の目指すべき姿を踏まえたまちづくりの方針、施設整備、警戒避難体制など津波防災・減災対策の基本的な方向性や重点的に推進する施策を記載することが望ましい。
 また、市町村の津波防災地域づくりの考え方を住民等に広く周知し、推進計画区域内で津波防災地域づくりに参画する公共・民間の様々な主体が、推進計画の方向に沿って取り組むことができるよう、図面等で分かりやすく推進計画の全体像を示すなどの工夫を行うことが望ましい。
ウ 浸水想定区域における土地利用及び警戒避難体制の整備に関する事項(法第10条第3項第2号)について
 本事項は、推進計画と浸水想定区域における土地利用と警戒避難体制の整備に関する施策、例えば警戒区域や特別警戒区域の指定との整合的・効果的な運用を図るために必要な事項を記載することを想定したものである。
 都道府県知事が指定する警戒区域においては、避難訓練の実施、避難場所や避難経路等を定める市町村地域防災計画の充実などを市町村が行うことになり、一方、推進計画区域では、推進計画に基づき、避難路や避難施設等避難の確保のための施設の整備などが行われるため、これらの施策・事業間及び実施主体間の整合を図る必要がある。
 また、頻度が低いが大規模な被害をもたらす最大クラスの津波に対して、土地区画整理事業等の市街地の整備改善のための事業や避難路や避難施設等の避難の確保のための施設等のハード整備を行う区域、ハード整備の状況等を踏まえ警戒避難体制の整備を特に推進する必要がある区域、ハード整備や警戒避難体制の整備に加えて一定の建築物の建築とそのための開発行為を制限することにより対応する必要がある区域等、地域ごとの特性とハード整備の状況に応じて、必要となる手法を分かりやすく示しておくことが重要である。
 そこで、本事項においては、推進計画に定める市街地の整備改善のための事業、避難路や避難施設等の整備等に係る事業・事務と、警戒避難体制を整備する警戒区域や一定の建築物の建築とそのための開発行為を制限する特別警戒区域の指定などを、推進計画区域内において、地域の特性に応じて区域ごとにどのように組み合わせることが適当であるか、基本的な考え方を記載することが望ましい。また、これらの組み合わせを検討するに当たっては、津波浸水想定により示されるその地域の津波に対する危険度・安全度を踏まえるとともに、津波被害が想定される沿岸地域は市街化が進んだ都市的機能が集中するエリアであったり、水産業などの地域の重要な産業が立地するエリアであることも多いことから、市街化や土地利用の現状、地域の再生・活性化の方向性を含めた地域づくりの方針など多様な地域の実態・ニーズに適合するように努めるものとする。
エ 津波防災地域づくりの推進のために行う事業又は事務に関する事項(法第10条第3項第3号)について
 本事項は、推進計画の区域内において実施する事業又は事務を列挙することを想定したものである。
 法第10条第3項第3号イの海岸保全施設、港湾施設、漁港施設及び河川管理施設並びに保安施設事業に係る施設の整備に関する事項をはじめ、同号イからヘまでに掲げられた事項については、一及び四.1に示した基本的な考え方を踏まえ、実施する事業等の全体としての位置と規模、実施時期、期待される効果等を網羅的に記載し、津波防災地域づくりの意義と全体像が分かるように記載することが望ましい。
 同号ロの津波防護施設は、津波そのものを海岸で防ぐことを目的とする海岸保全施設等を代替するものではなく、発生頻度が極めて低い最大クラスの津波が、海岸保全施設等を乗り越えて内陸に浸入するという場合に、その浸水の拡大を防止しようとするために内陸部に設ける施設である。このため、津波防護施設は、ソフト施策との組み合わせによる津波防災地域づくり全体の将来的なあり方の中で、当該施設により浸水の拡大が防止される区域・整備効果等を十分に検討した上で、地域の選択として、市町村が定める推進計画に位置づけ整備する必要がある。また、発生頻度が低い津波に対応するものであるため、後背地の状況等を踏まえ、道路・鉄道等の施設を活用できる場合に、当該施設管理者の協力を得ながら、これらの施設を活用して小規模盛土や閘門を設置するなど効率的に整備し一体的に管理していくことが適当である。なお、推進計画区域内の道路・鉄道等の施設が、人的災害を防止・軽減するため有用であると認めるときは、当該施設の所有者の同意を得て、指定津波防護施設に指定できることとしており、指定の考え方等については国が助言するものとする。
 同号ハの一団地の津波防災拠点市街地形成施設の整備に関する事業、土地区画整理事業、市街地再開発事業その他の市街地の整備改善のための事業は、津波が発生した場合においても都市機能の維持が図られるなど、津波による災害を防止・軽減できる防災性の高い市街地を形成するためのものであり、住宅、教育施設、医療施設等の居住者の共同の福祉又は利便のために必要な公益的施設、公共施設等の位置について十分勘案して実施する必要がある。「その他の市街地の整備改善のための事業」としては、特定利用斜面保全事業、密集市街地の整備改善に関する事業等が含まれる。また、同号ホにより、住民の生命、身体及び財産を保護することを目的に集団移転促進事業について定めることができ、推進計画に定めた場合には、津波による災害の広域性に鑑み、都道府県が計画の策定主体となることも可能である。
 同号ニの避難路、避難施設、公園、緑地、地域防災拠点施設その他の津波の発生時における円滑な避難の確保のための施設は、最大クラスの津波が海岸保全施設等を乗り越えて内陸に来襲してきたときに、住民等の命をなんとしても守るための役割を果たすものであり、津波浸水想定を踏まえ、土地利用の状況等を十分に勘案して適切な位置に定める必要がある。また、警戒区域内では、法第56条第1項、第60条第1項及び第61条第1項に基づく指定避難施設及び管理協定の制度により、市町村が民間建築物等を避難施設として確保することができることから、当該制度の積極的な活用を図ることが適当である。特に、人口が集中する地域など多くの避難施設が必要な地域にあっては、指定避難施設等の制度のほか、法第15条の津波避難建築物の容積率規制の緩和などの支援施策を活用し、民間の施設や既存の施設を活用して、必要な避難施設を効率的に確保するよう努める必要がある。
 同号ヘの地籍調査は、津波による災害の防止・軽減のための事業の円滑な施行等に寄与するために行うものであり、また、法第95条により、国は、推進計画区域における地籍調査の推進を図るため、その推進に資する調査を行うよう努めることとしている。
 同号トは、同号イからヘまでに掲げられた事業等を実施する際に、民間の資金、経営能力等を活用するための事項を記載することを想定した項目である。例えば、民間資金等の活用による公共施設等の整備等の促進に関する法律(平成11年法律第117号)(PFI法)に基づく公共施設の整備、指定管理者制度の活用等が考えられる。なお、具体的な事業名を記載することができない場合においても、民間資金等を積極的に活用するという方針そのものを掲げることも含めて検討することが望ましい。
 なお、法第5章第1節の土地区画整理事業に関する特例及び同章第3節の集団移転促進事業に関する特例を適用するためには、本事項に関係する事業を推進計画に記載する必要がある。
オ 推進計画における期間の考え方について
 津波防災地域づくりは、発生頻度は低いが地域によっては近い将来に発生する確率が高まっている最大クラスの津波に対応するものであるため、中長期的な視点に立ちつつ、近い将来の危険性に対しては迅速に対応するとともに、警戒避難体制の整備については常に高い意識を持続させていくことが必要である。
 このため、それぞれの対策に必要な期間等を考慮して、複数の選択肢の中から効果的な組み合わせを検討することが必要である。例えば、ハード整備に先行して警戒避難体制の整備や特別警戒区域の指定等のソフト施策によって対応するといったことが想定される。
 なお、津波防災地域づくりを持続的に推進するため、推進計画には計画期間を設定することとしていないが、個々の施策には実施期間を伴うものがあるため、適時適切に計画の進捗状況を検証していくことが望ましい。
3 関係者との調整について
 推進計画を作成する際には、推進計画の実効性を確実なものとする観点から、計画に定めようとする事業・事務を実施することになる者と十分な調整を図るとともに、市町村マスタープランとの調和を図る観点から、当該市町村の都市計画部局と十分な調整を図る必要がある。事業・事務を実施することになる者の範囲については、推進計画の策定主体である市町村において十分に検討し、協議等が必要となるかどうか当事者に確認することが望ましい。
 また、推進計画を作成しようとするときには、津波防災地域づくりの推進のための事業・事務等について、推進計画の前提となる津波浸水想定の設定や、推進計画と相まって津波防災地域づくりの推進を図る警戒区域及び特別警戒区域の指定を行う都道府県と協議を行う必要がある。なお、この場合には、第10条第5項及び第11条第2項第2号の都道府県には都道府県公安委員会も含まれていることに留意が必要である。
 法第10条第6項から第8項までの規定は、海岸保全施設、港湾施設、漁港施設、河川管理施設、保安施設事業に係る施設等の施設について、市町村と、これらの施設の関係管理者等との調整方法について定めている。その趣旨は、津波防災地域づくりを円滑に推進する観点から、関係する施設の管理者が作成する案に基づくこととし、市町村の方針とこれらの施設の事業計画との調整を図ろうというものである。各施設の管理者は、予算上の制約や隣接する地域の事情、関係する事業との関係等を総合的に勘案して事業計画を作成する必要があるが、市町村から申出があった場合には可能な限り尊重することが求められるものである。
4 協議会の活用について
 関係者との調整を円滑かつ効率的に行うため、法第11条第1項の協議会の活用を検討することが望ましい。特に、複数の市町村が共同で作成する場合には、協議会を活用する利点は大きいと考えられる。
 また、協議会には、学識経験者、住民の代表、民間事業者、推進計画に定めようとする事業・事務の間接的な関係者(例えば、兼用工作物である津波防護施設の関係者)等、策定主体である市町村が必要と考える者を構成員として加えることができる。

五 警戒区域及び特別警戒区域の指定について指針となるべき事項
1 警戒区域及び特別警戒区域の位置づけ
 警戒区域は、最大クラスの津波が発生した場合の当該区域の危険度・安全度を津波浸水想定や法第53条第2項に規定する基準水位により住民等に「知らせ」、いざというときに津波から住民等が円滑かつ迅速に「逃げる」ことができるよう、予報又は警報の発令及び伝達、避難訓練の実施、避難場所や避難経路の確保、津波ハザードマップの作成等の警戒避難体制の整備を行う区域である。
 また、特別警戒区域は、警戒区域のうち、津波が発生した場合に建築物が損壊・浸水し、住民等の生命・身体に著しい危害が生ずるおそれがある区域において、防災上の配慮を要する住民等が当該建築物の中にいても津波を「避ける」ことができるよう、一定の建築物の建築とそのための開発行為に関して建築物の居室の高さや構造等を津波に対して安全なものとすることを求める区域である。
 なお、これらの区域の指定は、推進計画に定められたハード施策等との整合性に十分に配意して行う必要がある。
2 警戒区域の指定について
 警戒区域は、最大クラスの津波に対応して、法第54条に基づく避難訓練の実施、避難場所や避難経路等を定める市町村地域防災計画の拡充、法第55条に基づく津波ハザードマップの作成、法第56条第1項、第60条第1項及び第61条第1項に基づく指定及び管理協定による避難施設の確保、第71条に基づく防災上の配慮を要する者等が利用する施設に係る避難確保計画の作成等の警戒避難体制の整備を行うことにより、住民等が平常時には通常の日常生活や経済社会活動を営みつつ、いざというときには津波から「逃げる」ことができるように、都道府県知事が指定する区域である。
 このような警戒区域の指定は、都道府県知事が、津波浸水想定を踏まえ、基礎調査の結果を勘案し、津波が発生した場合には住民等の生命又は身体に危害が生ずるおそれがあると認められる土地の区域で、当該区域における人的災害を防止するために上記警戒避難体制を特に整備すべき土地の区域について行うことができるものである。警戒区域における法第53条第2項に規定する基準水位(津波浸水想定に定める水深に係る水位に建築物等への衝突による津波の水位の上昇を考慮して必要と認められる値を加えて定める水位)は、指定避難施設及び管理協定に係る避難施設の避難上有効な屋上その他の場所の高さや、特別警戒区域の制限用途の居室の床の高さの基準となるものであり、警戒区域の指定の際に公示することとされている。これについては、津波浸水想定の設定作業の際に併せて、津波浸水想定を設定するための津波浸水シミュレーションで、想定される津波のせき上げ高を算出しておき、そのシミュレーションを用いて定めるものとし、原則として地盤面からの高さで表示するものとする。
 警戒区域の指定に当たっては、法第53条第3項に基づき、警戒避難体制の整備を行う関係市町村の長の意見を聴くこととされているが、警戒避難体制の整備に関連する防災、建築・土木、福祉・医療、教育等の関係部局、具体の施策を実施する市町村、関係者が緊密な連携を図って連絡調整等を行うとともに、指定後においても継続的な意思疎通を図っていくことが必要である。
 なお、警戒区域内における各種措置を効果的に行うために、市町村長等が留意すべき事項については、以下のとおりである。
ア 市町村地域防災計画の策定
 市町村防災会議(市町村防災会議を設置しない市町村にあっては、当該市町村の長)は、法第54条により、市町村地域防災計画に、警戒区域ごとに、津波に関する予報又は警報の発令及び伝達、避難場所及び避難経路、避難訓練等、津波による人的災害を防止するために必要な警戒避難体制に関する事項について定めることとなるが、その際、高齢者等防災上の配慮を要する者への配慮や住民等の自主的な防災活動の育成強化に十分配意するとともに、避難訓練の結果や住民等の意見を踏まえ、適宜適切に実践的なものとなるよう見直していくことが望ましい。また、特に、地下街等又は防災上の配慮を要する者が利用する施設については、円滑かつ迅速な避難の確保が図られるよう、津波に関する情報、予報又は警報の発令及び伝達に関する事項を定める必要がある。
イ 津波ハザードマップの作成
 市町村の長は、法第55条により、市町村地域防災計画に基づき、津波に関する情報の伝達方法、避難施設その他の避難場所及び避難路その他の避難経路等、住民等の円滑な警戒避難を確保する上で必要な事項を記載した津波ハザードマップを作成・周知することとなるが、その作成・周知に当たっては、防災教育の充実の観点から、ワークショップの活用など住民等の協力を得て作成し、説明会の開催、避難訓練での活用等により周知を図る等、住民等の理解と関心を深める工夫を行うことが望ましい。また、津波浸水想定や市町村地域防災計画が見直された場合など津波ハザードマップの見直しが必要となったときは、できるだけ速やかに改訂することが適当である。併せて、市町村地域防災計画についても、必要な事項は平時から住民等への周知を図るよう努めるものとする。
ウ 避難施設
 法第56条第1項の指定避難施設は、津波に対して安全な構造で基準水位以上に避難場所が配置等されている施設を、市町村長が当該施設の管理者の同意を得て避難施設に指定し、施設管理者が重要な変更を加えようとするときに市町村長への届出を要するもの、法第60条第1項又は第61条第1項の管理協定による避難施設は、市町村と上記と同様の基準に適合する施設の施設所有者等又は施設所有者等となろうとする者が管理協定を締結し、市町村が自ら当該施設の避難の用に供する部分の管理を行うことができるものである。
 これらの避難施設は、津波浸水想定や土地利用の現況等地域の状況に応じて、住民等の円滑かつ迅速な避難が確保されるよう、その配置、施設までの避難経路・避難手段等に留意して設定することが適当である。また、避難訓練においてこれらの避難施設を使用するなどして、いざというときに住民等が円滑かつ迅速に避難できることを確認しておく必要がある。なお、法第15条の容積率の特例の適用を受ける建築物については、当該指定又は管理協定の制度により避難施設として位置づけることが望ましい。
エ 避難確保計画
 避難促進施設(市町村地域防災計画に定められた地下街等又は一定の防災上の配慮を要する者が利用する施設)の所有者又は管理者は、法第71条第1項により、避難訓練その他当該施設の利用者の津波の発生時における円滑かつ迅速な避難の確保を図るために必要な措置に関する計画(避難確保計画)を作成することとなるが、市町村長は、当該所有者又は管理者に対して、避難確保計画の作成や避難訓練について、同条第3項に基づき、助言又は勧告を行うことにより必要な支援を行うことが適当である。
3 特別警戒区域の指定について
 特別警戒区域は、都道府県知事が、警戒区域内において、津波から逃げることが困難である特に防災上の配慮を要する者が利用する一定の社会福祉施設、学校及び医療施設の建築並びにそのための開発行為について、法第75条及び第84条第1項に基づき、津波に対して安全なものとし、津波が来襲した場合であっても倒壊等を防ぐとともに、用途ごとに定める居室の床面の高さが基準水位以上であることを求めることにより、住民等が津波を「避ける」ため指定する区域である。
 また、法第73条第2項第2号に基づき、特別警戒区域内の市町村の条例で定める区域内では、津波の発生時に利用者の円滑かつ迅速な避難を確保できないおそれが大きいものとして条例で定める用途(例えば、住宅等の夜間、荒天時等津波が来襲した時間帯等によっては円滑な避難が期待できない用途)の建築物の建築及びそのための開発行為について、法第75条及び第84条第2項に基づき、上記と同様、津波に対して安全なものであること、並びに居室の床面の全部又は一部の高さが基準水位以上であること(建築物内のいずれかの居室に避難することで津波を避けることができる。)又は基準水位以上の高さに避難上有効な屋上等の場所が配置等されること(建築物の屋上等に避難することで津波を避けることができる。)のいずれかの基準を参酌して条例で定める基準に適合することを地域の選択として求めることができる。
 このような特別警戒区域は、都道府県知事が、津波浸水想定を踏まえ、基礎調査の結果を勘案し、警戒区域のうち、津波が発生した場合には建築物が損壊し、又は浸水し、住民等の生命又は身体に著しい危害が生ずるおそれがあると認められる土地の区域で、上記の一定の建築物の建築及びそのための開発行為を制限すべき土地の区域について指定することができるものである。その指定に当たっては、基礎調査の結果を踏まえ、地域の現況や将来像等を十分に勘案する必要があるとともに、法第72条第3項から第5項までの規定に基づき、公衆への縦覧手続、住民や利害関係人に対する意見書提出手続、関係市町村長の意見聴取手続により、地域住民等の意向を十分に踏まえて行うことが重要であり、また、住民等に対し制度内容の周知、情報提供を十分に行いその理解を深めつつ行うことが望ましい。
 また、その検討の目安として、津波による浸水深と被害の関係について、各種の研究機関や行政機関等による調査・分析が行われており、これらの結果が参考になる。なお、同じ浸水深であっても、津波の到達時間・流速、土地利用の状況、漂流物の存在等によって人的災害や建物被害の発生の程度が異なりうることから、地域の実情や住民等の特性を踏まえるよう努める必要がある。
 特別警戒区域の指定に当たっては、制限の対象となる用途等と関連する都市・建築、福祉・医療、教育、防災等の関係部局、市町村や関係者が緊密な連携を図って連絡調整等を行うとともに、指定後においても継続的な意思疎通を図っていくことが必要である。
4 警戒区域及び特別警戒区域の指定後の対応
 警戒区域及び特別警戒区域を指定するときは、その旨や指定の区域等を公示することとなるが、津波ハザードマップに記載するなど様々なツールを活用して住民等に対する周知に万全を期するよう努めるものとする。
 また、地震等の影響により地形的条件が変化したり、新たに海岸保全施設や津波防護施設等が整備されたりすること等により、津波浸水想定が見直された場合など、警戒区域又は特別警戒区域の見直しが必要となったときには、上記の指定の際と同様の考え方により、これらの状況の変化に合わせた対応を図ることが望ましい。

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