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原子力災害対策特別措置法第6条の2第1項の規定に基づき、原子力災害対策指針を定めたので、同条第3項の規定に基づき、公表する件

  平成24・12・3・原子力規制委員会告示  5号  
全改平成25・3・8・原子力規制委員会告示  1号−−
原子力災害対策特別措置法(平成11年法律第156号)第6条の2第1項の規定に基づき、原子力災害対策指針を次のように定めたので、同条第3項の規定に基づき、公表する。
前文
(目的・趣旨)
 本指針は、原子力災害対策特別措置法(平成11年法律第156号。以下「原災法」という。)第6条の2第1項に基づき、原子力事業者(原災法第2条第3号に規定する者をいう。以下同じ。)、指定行政機関の長及び指定地方行政機関の長、地方公共団体、指定公共機関及び指定地方公共機関その他の者が原子力災害対策を円滑に実施するために定めるものである。
 本指針の目的は、国民の生命及び身体の安全を確保することが最も重要であるという観点から、緊急事態における原子力施設周辺の住民等に対する放射線の影響を最小限に抑える防護措置を確実なものとすることにある。
 この目的を達成するため、本指針は、原子力事業者、国、地方公共団体等が原子力災害対策に係る計画を策定する際や当該対策を実施する際等において、科学的、客観的判断を支援するために、次の基本的な考え方を踏まえ、専門的・技術的事項等について定めるものである。
・住民の視点に立った防災計画を策定すること。
・災害が長期にわたる場合も考慮して、継続的に情報を提供する体系を構築すること。
・最新の国際的知見を積極的に取り入れる等、計画の立案に使用する判断基準等が常に最適なものになるよう見直しを行うこと。
(対象)
 本指針の対象は、核原料物質、核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(昭和32年法律第166号。以下「炉規法」という。)に規定された原子力施設(原災法の対象となるものに限る。)の原子力災害及び核燃料物質等の輸送時の原子力災害とする。
(過去の経緯)
 原子力安全委員会は、原子力発電所等の周辺における防災活動をより円滑に実施するための専門的・技術的事項として「原子力施設等の防災対策について」(以下「旧指針」という。)をとりまとめてきた。
 平成23年3月に東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故が起こり、従来の原子力防災について多くの問題点が明らかとなった。平成24年3月に原子力安全委員会の原子力施設等防災専門部会防災指針検討ワーキンググループから「『原子力施設等の防災対策について』の見直しに関する考え方について 中間とりまとめ」(以下「中間とりまとめ」という。)が報告された。また、国会、政府、民間の各事故調査委員会による各報告書の中においても多くの問題点が指摘され、住民等の視点を踏まえた対応の欠如、複合災害や過酷事象への対策を含む教育・訓練の不足、緊急時の情報提供体制の不備、避難計画や資機材等の事前準備の不足、各種対策の意思決定の不明確さ等に関する見直しについても多数の提言がされた。
 平成24年9月18日を以て、原子力安全委員会は廃止され、同年9月19日に原子力規制委員会及び事務局である原子力規制庁が発足した。
 本指針は、前記の旧指針及び中間取りまとめの内容を精査し、さらに、前記の各事故調査委員会からの報告等を考慮した上で定めたものである。

第1 原子力災害
(1)原子力災害及び原子力事業者の責任
 原子力災害とは、原子力施設の事故等に起因する放射性物質又は放射線の異常な放出により生じる被害を意味する。原災法においては、原子力施設外における放射性物質又は放射線の放出が一定の水準を超えた場合には、原子力緊急事態(原災法第2条第2号に規定する「原子力緊急事態」をいう。以下同じ。)に該当するものとされ、緊急事態応急対策が講じられる。
 また、原子力事業者が、災害の原因である事故等の収束に一義的な責任を有すること及び原子力災害対策について大きな責務を有していることを認識する必要がある。
(2)放射性物質又は放射線の放出形態及び被ばくの経路
 原子力災害対策を的確に実施するためには、放射性物質又は放射線の放出の形態及び住民等の生命又は身体に危険を及ぼすこととなる被ばくの経路について理解しておく必要がある。
1) 放射性物質又は放射線の放出
(i)原子炉施設で想定される放射性物質の放出形態
 原子炉施設においては、多重の物理的防護壁が設けられているが、これらの防護壁が機能しない場合は、放射性物質が周辺環境に放出される。その際、大気へ放出の可能性がある放射性物質としては、気体状のクリプトンやキセノン等の希ガス、揮発性のヨウ素、気体中に浮遊する微粒子(以下「エアロゾル」という。)等の放射性物質がある。これらは、気体状又は粒子状の物質を含んだ空気の一団(以下「プルーム」という。)となり、移動距離が長くなる場合は拡散により濃度は低くなる傾向があるものの、風下方向の広範囲に影響が及ぶ可能性がある。また、特に降雨雪がある場合には、地表に沈着し長期間留まる可能性が高い。さらに、土壌や瓦礫等に付着する場合や冷却水に溶ける場合があり、それらの飛散や流出には特別な留意が必要である。
 実際、平成23年3月に発生した東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故においては、格納容器の一部の封じ込め機能の喪失、溶融炉心から発生した水素の爆発による原子炉建屋の損傷等の結果、セシウム等の放射性物質が大量に大気環境に放出された。また、炉心冷却に用いた冷却水に多量の放射性物質が含まれて海に流出した。したがって、事故による放出形態は必ずしも単一的なものではなく、複合的であることを十分考慮する必要がある。
(ii)燃料施設で想定される放出形態
(イ)火災、爆発等による核燃料物質の放出
 核燃料施設においては、火災、爆発、漏えい等によって当該施設からウランやプルトニウム等がエアロゾルとして放出されることが考えられる。これらの放射性物質は前記(i)と同様にプルームとなって放出、拡散される。フィルタを通して放出された場合には、気体状の物質とほぼ同様に振る舞うと考えられる。ただし、爆発等によりフィルタを通さずに放出された場合には、粗い粒子状の放射性物質が多くなる。
(ロ)臨界事故
 臨界事故が発生した場合、核分裂反応によって生じた核分裂生成物の放出に加え、反応によって中性子線及びガンマ線が発生する。遮へい効果が十分な場所で発生した場合は放射線の影響は無視できるが、効果が十分でない場合は、中性子線及びガンマ線に対する防護が必要である。なお、防護措置の実施に当たっては、中性子線及びガンマ線の放射線量は発生源からの距離のほぼ二乗に反比例して減少する点も考慮することが必要である。
2) 被ばくの経路
 被ばくの経路には、大きく「外部被ばく」と「内部被ばく」の2種類がある。これらは複合的に起こり得ることから、原子力災害対策の実施に当たっては双方を考慮する必要がある。
(i)外部被ばく
 外部被ばくとは、体外にある放射線源から放射線を受けることである。
(ii)内部被ばく
 内部被ばくとは、放射性物質を吸入、経口摂取等により体内に取り込み、体内にある放射線源から放射線を受けることである。
(3)原子力災害の特殊性
 原子力災害では、放射性物質又は放射線の放出という特有の事象が生じる。したがって、原子力災害対策の実施に当たっては、次のような原子力災害の特殊性を理解する必要がある。
・原子力災害が発生した場合には被ばくや汚染により復旧・復興作業が極めて困難となることから、原子力災害そのものの発生又は拡大の防止が極めて重要であること。
・放射線測定器を用いることにより放射性物質又は放射線の存在は検知できるが、その影響をすぐに五感で感じることができないこと。
・平時から放射線についての基本的な知識と理解を必要とすること。
・原子力に関する専門的知識を有する機関の役割、当該機関による指示、助言等が極めて重要であること。
・放射線被ばくの影響は被ばくから長時間経過した後に現れる可能性があるので、住民等に対して、事故発生時から継続的に健康管理等を実施することが重要であること。
 ただし、情報連絡、住民等の屋内退避・避難、被災者の生活に対する支援等の原子力災害対策の実施については、一般的な防災対策との共通性又は類似性があるため、これらを活用した対応のほうが効率的かつ実効的である。したがって、原子力災害対策は、前記の特殊性を考慮しつつ、一般災害と全く独立した防災対策を講じるのではなく、一般的な防災対策と連携して対応していく必要がある。
(4)放射線被ばくの防護措置の基本的考え方
 原子力災害が発生した場合には、前記(3)で述べた原子力災害の特殊性を踏まえた上で、住民等に対する放射線被ばくの防護措置を講じることが最も重要である。基本的考え方としては、国際放射線防護委員会(以下「ICRP」という。)等の勧告、特にPublication109、111や国際原子力機関(以下「IAEA」という。)のGS−R−2等の原則にのっとり、住民等の被ばく線量を最小限に抑えると同時に、被ばくを直接の要因としない健康等への影響も抑えることが必要である。

第2 原子力災害事前対策
(1)原子力災害事前対策の基本的考え方
 原子力施設においては、原子力災害の発生を未然に防止するため、炉規法、原災法等に基づき、原子力災害予防対策が講じられる。しかし、原子力災害予防対策を講じているにもかかわらず、原子力災害が発生した場合には、原子力事業者、国、地方公共団体等が、住民の健康、生活基盤及び環境への影響を、事態の段階に応じた最適な方法で緩和し、影響を受けた地域が可能な限り早く通常の社会的・経済的な活動に復帰できるよう、様々な行動をとらなければならない。
 これらの行動が、事態の段階に応じて有効に機能するためには、平時から、適切な緊急時の計画の整備を行い、訓練等によって実行できるように、準備を十分に行っておく必要がある。
(2)緊急事態における防護措置実施の基本的考え方について
1) 緊急事態の段階
 緊急事態においては、緊急事態の進展に応じて、関係者が共通の認識に基づき意思決定を行うことが重要である。すなわち、緊急事態を、準備段階・初期対応段階・中期対応段階・復旧段階に区分し、各区分の対応の詳細について検討しておくことが有効である。準備段階では、原子力事業者、国、地方公共団体等が行動を計画し、維持し、改善するように、検討等を行う必要がある。初期対応段階では、情報が限られた中でも、放射線被ばくによる確定的影響を回避するとともに確率的影響を最小限に抑えるため、迅速な対応を行う必要がある。中期対応段階では、放射性物質又は放射線の影響を適切に管理することが求められ、環境放射線モニタリングや解析により放射線状況を十分に把握し、それに基づき、初期対応段階で実施した防護措置の変更・解除や長期防護措置の検討を行う必要がある。さらに、復旧段階では、被災した地域の長期的な復旧策を開始するための計画を策定し、通常の社会的・経済的活動への復帰の支援を行う必要がある。
2) 緊急事態初期における防護措置の考え方
 前記1)の緊急事態のうち、初期対応段階においては、東京電力福島第一原子力発電所事故の教訓を踏まえ、放出開始前から必要に応じた防護措置を講じなければならない。このように防護措置を講じるためには、次のように、緊急事態の区分を決定するとともに、観測可能な指標に基づき迅速な意思決定ができる体制を構築する必要がある。
(i)緊急時活動レベル(EAL)
 初期対応段階における避難等の予防的防護措置を確実かつ迅速に開始するための判断基準は、深層防護を構成する各層設備の状態、放射性物質の閉じ込め機能の状態、外的事象の発生等の原子力施設の状態等で評価する緊急時活動レベル(Emergency Action Level°以下「EAL」という。)として設定する。EALの具体的内容については、今後、原子力規制委員会において検討し、本指針に記載する。
(ii)運用上の介入レベル(OIL)
 環境への放射性物質の放出後、主に確率的影響の発生を低減するための防護措置を実施する際の判断基準は、放射線線量率や環境試料中の放射性物質の濃度等の環境において計測可能な値で評価する運用上の介入レベル(Operational Intervention Level°以下「OIL」という。)として設定する。OILの具体的水準については、今後、原子力規制委員会において検討し、本指針に記載する。
(3)原子力災害対策重点区域
1) 原子力災害対策重点区域の設定
 原子力災害が発生した場合において、放射性物質又は放射線の異常な放出による周辺環境への影響の大きさ、影響が及ぶまでの時間は、異常事態の態様、施設の特性、気象条件、周辺の環境状況、住民の居住状況等により異なるため、発生した事態に応じて臨機応変に対処する必要がある。その際、住民等に対する被ばくの防護措置を短期間で効率的に行うためには、あらかじめ異常事態の発生を仮定し、施設の特性等を踏まえて、その影響の及ぶ可能性がある区域を定めた上で、重点的に原子力災害に特有な対策を講じておくこと(以下、当該対策が講じられる区域を「原子力災害対策重点区域」という。)が必要である。
 原子力災害対策重点区域内において平時から実施しておくべき対策としては、住民等への対策の周知、住民等への迅速な情報連絡手段の確保、緊急時モニタリング(放射性物質若しくは放射線の異常な放出又はそのおそれがある場合に実施する環境放射線モニタリングをいう。以下同じ。)の体制整備、原子力防災に特有の資機材等の整備、屋内退避・避難等の方法や医療機関の場所等の周知、避難経路及び場所の明示等が必要である。また、当該区域内においては、施設からの距離に応じて重点を置いた対策を講じておく必要がある。
2) 原子力災害対策重点区域の範囲
 原子力災害対策重点区域の設定に当たっては、原子力施設の種類に応じた当該施設からの距離をその目安として用いることとする。
(i)実用発電用原子炉に係る原子炉施設の場合
 実用発電用原子炉に係る原子炉施設の原子力災害対策重点区域は、国際基準や東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の教訓等を踏まえて、次のとおり定める。
(イ)予防的防護措置を準備する区域(PAZ:Precautionary Action Zone)
 PAZとは、急速に進展する事故においても放射線被ばくによる確定的影響等を回避するため、先述のEALに基づき、即時避難を実施する等、放射性物質の環境への放出前の段階から予防的に防護措置を準備する区域のことを指す。PAZの具体的な範囲については、IAEAの国際基準において、PAZの最大半径を原子力施設から三〜5キロメートルの間で設定すること(5キロメートルを推奨)とされていること等を踏まえ、「原子力施設から概ね半径5キロメートル」を目安とする。
 なお、この目安については、地方公共団体の行政区画、地形条件、気象条件、主として参照する事故の規模等について検討した上で、迅速で実効的な防護措置を講ずることができるよう継続的に改善していく必要がある。
(ロ)緊急時防護措置を準備する区域(UPZ:Urgent Protective Planning Action Zone)
 UPZとは、確率的影響を最小限に抑えるため、先述のEAL、OILに基づき、緊急時防護措置を準備する区域である。UPZの具体的な範囲については、IAEAの国際基準において、UPZの最大半径は原子力施設から五〜30キロメートルの間で設定されていること等を踏まえ、「原子力施設から概ね30キロメートル」を目安とする。
 なお、この目安については、地方公共団体の行政区画、地形条件、気象条件、主として参照すべき事故の規模について検討した上で、迅速で実効的な防護措置を講ずることができるよう継続的に改善していく必要がある。
(ハ)プルーム通過時の被ばくを避けるための防護措置を実施する地域(PPA:Plume Protection Planning Area)の検討
 UPZ外においても、プルーム通過時には放射性ヨウ素の吸入による甲状腺被ばく等の影響もあることが想定される。つまり、UPZの目安である30キロメートルの範囲外であっても、その周辺を中心に防護措置が必要となる場合がある。プルーム通過時の防護措置としては、主に放射性物質の吸引等を避けるための屋内退避が挙げられるが、状況に応じた追加の防護措置を講じる必要が生じる場合もある。PPAの具体的な範囲については、今後、原子力規制委員会では、国際的議論の経過を踏まえつつ検討し、本指針に記載する。
(ii)実用発電用原子炉に係る原子炉施設以外の場合
 実用発電用原子炉に係原子炉施設以外の原子力災害対策重点区域は、次のとおりとする。ただし、当該区域は、前記(i)で述べた実用発電用原子炉に係る見直し内容も踏まえた見直しを行うべく、今後、原子力規制委員会において検討し、本指針に反映する。
(表)
施設の種類重点区域の目安(半径)
原子力発電所(実用発電用原子炉に係る原子炉施設を除く。)、研究開発段階にある原子炉施設及び50MWより大きい試験研究の用に供する原子炉施設約8〜10km(※1参照)
再処理施設約5km
試験研究の用に供する原子炉施設(50MW以下)熱出力≦1kW約50m
1kW<〃≦100kW約100m
100kW<〃≦10MW約500m
10MW<〃≦50MW約1500m
特殊な施設条件等を有する施設※2参照
加工施設及び臨界量以上の核燃料物質を使用する使用施設核燃料物質(質量管理、形状管理、幾何学的安全配置等による厳格な臨界防止策が講じられている状態で、静的に貯蔵されているものを除く。)を臨界量(※3参照)以上使用する施設であって、以下のいずれかの状況に該当するもの
・不定形状(溶液状、粉末状、気体状)、不定性状(物理的・化学的工程)で取り扱う施設
・濃縮度5%以上のウランを取り扱う施設
・プルトニウムを取り扱う施設
約500m
それ以外の施設約50m
廃棄物埋設施設及び廃棄物管理施設約50m
使用済燃料中間貯蔵施設(※4参照)約50m(※5参照)
※1 独立行政法人日本原子力研究開発機構「もんじゅ」、「ふげん」の重点区域については、前記(i)の実用発電用原子炉に係る原子炉施設と同様とする。
※2 特殊な施設条件等を有する施設及び重点区域の目安
・独立行政法人日本原子力研究開発機構JRR−4 約1000メートル
・独立行政法人日本原子力研究開発機構HTTR 約200メートル
・独立行政法人日本原子力研究開発機構FCA 約150メートル
・株式会社東芝NCA 約100メートル
※3 重点区域の目安についての技術的補足事項
 臨界量は、水反射体付き均一UO2F2又はPu(NO3)4水溶液の最小推定臨界下限値から導出された量を用いる。
・ウラン(濃縮度5%以上) 700g−235U
・ウラン(濃縮度5%未満) 1200g−235U
・プルトニウム 450g−239Pu
※4 事業所外運搬用の輸送容器である金属製乾式キャスクを貯蔵容器として用いた施設に限る。
※5 重点区域の目安の距離を約50メートルとする場合の施設からの距離の考え方については、金属キャスクを貯蔵する区域からの距離とする。
3) 原子力災害対策重点区域の設定に当たっての留意点
 地方公共団体は、各地域防災計画を策定する際には、前記2)(i)、(ii)で述べた考え方を踏まえつつ、区域を設定する必要がある。その際、迅速かつ実効性のある防護措置が実施できる区域を設定するため、原子力災害対策重点区域内の市町村の意見を聴くとともに、前記のPAZ及びUPZの数値をひとつの目安として、地勢、行政区画等の地域に固有の自然的、社会的周辺状況等及び施設の特徴を勘案して設定することが重要である。
 UPZに包含される地域は、複数の道府県の一部を含む場合も想定されるため、国が積極的・主体的に関与し、区域内での対策の整合を図り、複数の道府県間の調整等を行うことが必要である。
(4)原子力事業者が講ずべき原子力災害事前対策
 原子力事業者は、原子力施設に対して、炉規法、原災法等に基づき、平時より原子力災害予防対策を講じているが、それにもかかわらず、当該施設周辺において放射性物質若しくは放射線の異常な放出又はそのおそれがある場合には、原子力災害の発生及びその拡大を防止する必要がある。原子力事業者は、防災業務計画を策定するとともに、従業員に対する教育及び訓練を実施して、緊急時に適切な対処ができるよう準備しておく必要がある。また、原子力施設内外における協力関係も構築しておく必要がある。
 原子力施設の異常事態に関する情報を、国・地方公共団体に迅速かつ正確に通報することは、原子力事業者の極めて重大な責務である。したがって、原子力事業者は、原子力施設の特性を踏まえて、施設内の異常事態や施設外の放射線量を適切に把握するための測定器等を配置し、監視体制を整備しておく必要がある。さらに、あらかじめ、通報責任者、通報連絡様式及び手段を定める等、必要な情報を迅速かつ頻繁に伝えることができるような措置を講じておく必要がある。
(5)緊急時における住民等への情報提供の体制整備
 緊急時において、住民等の行動に関する指示が迅速かつ正確に伝達されるような体制を平時から構築しておく必要がある。また、これらの情報提供に関しては、災害時要援護者(高齢者、障害者、外国人、乳幼児その他の災害時に援護を必要とする者をいう。以下同じ。)及び一時滞在者等に対する十分な配慮を行うことが必要である。
 具体的には、地域防災計画等において、情報伝達に関する責任者及び実施者をあらかじめ定め、同様にして定めた一定の区域又は集落の責任者や住民等に迅速かつ正確な情報が伝達されるような仕組みを構築することが必要である。このため、緊急時の通報連絡体制、住民等の避難経路・場所、医療機関の場所、防災活動の手順等について、平時から情報提供しておく必要がある。また、情報の伝達に必要な設備を整備しなければならない。
 さらに、報道機関等を通じた情報提供も効果的であるため、関係者間の連携・協力体制を日頃から構築する必要がある。
(6)緊急時モニタリングの体制整備
 緊急事態においては、緊急時モニタリングを行い、周辺環境の放射性物質の積算線量及び放射線量率を把握することが重要である。それらは、防護措置を適切に実施するための判断根拠となるため、迅速な緊急時モニタリングを可能とする計画を事前準備しておくとともに、様々な災害を想定してモニタリングの機能が損なわれないような対策を講じておく必要がある。
 緊急時モニタリングは、次のとおり大きく2段階に分かれる。
1) 第一段階
 第一段階のモニタリングは、緊急事態の発生直後から速やかに開始する。その結果をOILと照らし合わせて防護措置に関する判断に用いる。第一段階では、次の事項を把握する。
・原子力施設周辺の空間放射線量率及び周辺に放出された大気中の放射性物質(放射性希ガス、放射性ヨウ素)の濃度
・放射性物質の放出により影響を受けた環境試料中の放射性物質(放射性ヨウ素、ウラン又はプルトニウム)の濃度
・広範な周辺環境における空間放射線量率及び放射性物質の濃度
2) 第二段階
 第二段階のモニタリングは、前記1)の第一段階のモニタリングより広い地域において実施する。その結果を放射性物質又は放射線の周辺環境に対する全般的影響の評価・確認、人体への被ばく評価、各種防護措置の実施・解除の判断、風評対策等に用いる。第二段階では、前記1)の第一段階における把握事項に加えて、次の事項を把握する。
・前記1)以外の対象核種についての大気中の放射性物質の濃度
・前記1)以外の対象核種についての環境試料中の放射性物質の濃度
・住民等が実際に被ばくしたと考えられる線量の評価
(7)緊急被ばく医療体制の整備
 原子力災害が発生した場合には、通常の災害医療に加えて被ばく医療の概念が必要となる。すなわち、被ばく線量、被ばくの影響が及ぶ範囲、除染の可能性等を考慮し、被災者や障害者に施す医療のコントロールを行い、緊急事態に適切な医療行為を整然と行うことが必要である。そのためには、平時から準備されている災害医療組織を最大限に活用すること、指揮系統を平時より確認しておくことが重要である。さらに、被ばく医療の特殊性の一つとして、放射線の長期影響や晩発障害を予測し、その防護措置を講じることも重要である。前記を踏まえ、原子力災害が発生した場合の医療的措置として次の要点を留意しなければならない。
・一般災害時の救急業務の在り方を軸として指揮系統を整備しておくこと。
・初動医療も含めたメディカルコントロールを徹底すること。
・緊急被ばく医療を主導する責務を平時より認識すること。
・被ばく医療の専門的意見を積極的に取り入れる許容性を持つこと。
・通信手段、受入れ医療機関、搬送手段等の災害時の救急業務に関係する重点事項については、被ばく医療としての特殊性を考慮するとともに、個々の地域としての特殊性も鑑みて決定すること。
・受入れ医療機関の選択とその役割については、その構造的基盤や人材的基盤の他に放射性物質の拡散予測等に基づいて位置を考慮すること。
・受入れ医療機関では、スクリーニング(被ばく者の汚染検査)、線量管理(被ばく者の放射線量測定)、除染(被ばく者の管理)等の被ばく医療に直結する作業に精通している者を養成すること。なお、この医療機関においては前記のような医療スタッフだけでなく、機関の施設管理者の理解が必須であり、そのための教育・研修を継続的に行うこと。
・住民に最も近い救急組織との連携体制を平時から確認すること。特に、これらの組織では放射線に関する基礎知識や被ばくの影響に関する最新の情報を等しく共有できるように努めること。また、防護服等の被ばく医療に必要な基本的な物資の整備・点検を怠らないこと。
(8)平時からの住民等への情報提供
 原子力災害の特殊性に鑑み、住民等が国の原子力災害対策本部及び地方公共団体の災害対策本部の指示に従って混乱なく行動をできるように、平時から原子力災害対策重点区域内の住民等に対して必要な情報提供を行っておく必要がある。情報の内容としては、次のものが挙げられる。
1) 放射性物質及び放射線の特性
 それぞれの原子力施設において取り扱う放射性物質及び放射線に関する基礎知識
2) 原子力事業所の概要
 原子力施設の事故防止の仕組みの概要、平常時及び緊急時の環境放射線モニタリングの仕組み(平常時のモニタリング結果を含む。)の概要
3) 原子力災害とその特殊性
 放射性物質又は放射線による被ばくの形態、放射線の影響及び被ばくを避ける方法
4) 原子力災害発生時における防災対策の内容
 緊急時の通報連絡体制、住民等の避難経路・場所及び医療機関の場所等、除染・汚染防止や安定ヨウ素剤服用の留意点並びに防災活動の手順
 ただし、住民等との情報共有等の在り方の詳細については、今後、原子力規制委員会において検討し、本指針に記載する。
(9)オフサイトセンター等の整備
 オフサイトセンターは、原子力災害が発生した場合に、現地において、国の原子力災害現地対策本部や地方公共団体の災害対策本部等が原子力災害合同対策協議会を組織し、情報を共有しながら、連携のとれた原子力災害対策を講じていくための拠点となる。実用発電用原子炉に係る原子炉施設のオフサイトセンターについては、PAZ及びUPZの目安を踏まえた範囲に立地すること、必要な放射線防護対策が講じられていること、地方公共団体等と緊密に連携できること、深刻な事態が生じた場合にも機能が維持できるよう代替施設の確保や通信経路の複線化等の方策が講じられていること等が必要である。また、オフサイトセンターにおいては、平時から、防災資料の管理、通信機器等のメンテナンス等を行うとともに、原子力防災専門官を含む防災関係者の定期的な連絡会や防災訓練により緊密な連絡調整を図っておく必要がある。
 オフサイトセンターの設置に当たって、国が指定する際には、地方公共団体等の意見を聴いて地域の実情を踏まえた対応を行うことが必要である。
 オフサイトセンターに加えて、原子力事業者は、原子力施設周辺において事故対応に必要な資機材、人員等の中継が可能となる現場活動拠点を適切な場所にあらかじめ設定し、必要に応じて臨時に設置できるようにしなければならない。
 なお、実用発電用原子炉に係る原子炉施設以外のオフサイトセンターについては、当面は現在のオフサイトセンターを活用するものとするが、今後、その詳細については原子力規制委員会において検討し、本指針に記載する。
(10)諸設備の整備
 原子力災害対策を適切に行うためには、所要の物的資源を整備しなくてはならない。放射線の影響は必ずしも即時に現れないため、放射線の量を様々な局面で計測する設備や機器、広範囲に及ぶ放射線の影響を各種データから解析し避難等の判断に資するシステム、状況や措置に関する情報を地域住民、関係機関、原子力事業者の間で迅速かつ正確に共有するためのインフラ等を整備しなければならない。これらの設備や機器等の整備に当たっては、地震等の自然災害への頑健性を配慮しなければならない。また、放射線の影響下での作業であるための防護資機材の整備が必要である。加えて、緊急被ばく医療設備、資機材等については、住民の生命及び身体の安全を確保するために、多数の被災者に対して迅速に措置を施す必要があることを踏まえた上での整備を行わなければならない。
 ただし、これらの設備から得られる予測情報の活用方策の明確化及び緊急被ばく医療に関する資機材の詳細については、今後、原子力規制委員会において検討し、本指針に記載する。
(11)防災関係資料の整備
 原子力災害対策を円滑かつ有効に実施するため、関係機関はそれぞれの業務に関する防災計画等を有していなければならない。また、国、地方公共団体、原子力事業者等の関係機関においては、あらかじめ定められたそれぞれの場所に原子力災害対策のために必要とされる資料として組織体制に関する資料、社会環境に関する資料、放射性物質又は放射線の影響推定に関する資料を常備しておく必要がある。オフサイトセンターには関係機関と共有すべき資料を常備しておく必要がある。いずれの資料も、常に最新のものに更新しておくことが不可欠であり、そのための仕組みを構築しておく必要がある。
(12)防災業務関係者等に対する教育及び訓練
 原子力災害対策を円滑かつ有効に実施するためには、その防災業務に関わる者(以下「防災業務関係者」という。)が、自らの業務に習熟することが必要であり、原子力災害対策に関する教育及び訓練を行うことが重要である。また、教育及び訓練を通じて、組織の風土として「安全文化」を醸成し、これを維持・向上していく必要がある。
 その際、原子力事業者においてはその経営陣から現場の職員及び関係者までが、規制機関を中心とする国においてはその職員が、安全を最優先することを再認識し、組織の「安全文化」の維持・向上に努力する姿勢を育成するべきである。
1) 教育
 防災業務関係者に対して、それぞれの責任範囲、任務内容、手順等を理解させ、特に、原子力発電所施設等においては現場の職員すべてに、緊急事態の通報及びそれに伴う措置に関する対応手順を教えることが必要である。また、これらの教育については、独立行政法人原子力安全基盤機構、独立行政法人日本原子力研究開発機構、独立行政法人放射線医学総合研究所等の関係指定公共機関が実施している原子力防災に係る研修コースを活用することが有効である。
2) 訓練
 訓練を通じて、防災計画、施設・設備・機器の機能、対策の準備状況、対応者の判断能力等の全体的な実効性を確認するとともに、防災体制の改善を図ることが必要である。また、防災体制に関しては、複合災害や広域汚染・長期放出状況においても機能し得るよう整備することが重要である。
 訓練に当たっては、防災活動の各要素の熟練度を高めていくこと、PAZ及びUPZ内の住民等も含めた関係者間の連携を確認するための総合的な防災訓練を行うことが必要である。また、複合災害や過酷事象等の訓練想定を作成して、可能な限り実地に近い形の防災訓練を行うとともに、様々な事故を考慮した多面的な訓練を計画することが重要である。さらに、訓練の実施後には、その結果を評価して必要な改善を行う等、防災体制の更なる改善を図ることが必要である。
 なお、訓練の実施に当たっては、原子力災害と一般災害との共通性を踏まえ、一般の防災対策との連携を図ることにも留意すべきである。

第3 緊急事態応急対策
(1)緊急事態応急対策の基本的な考え方
 原子力災害の発生時においては、限られた時間内に得られる確実性の高い情報に基づき住民等の防護措置を的確かつ迅速に講じることが必要である。その際、次のとおり観測可能な数値に基づき、当事者が事態に応じた防護措置を行うことが重要である。
(2)異常事態の把握及び緊急事態応急対策
 原子力施設の周辺に放射性物質若しくは放射線の異常な放出又はそのおそれがある場合には、次のような手順で、原子力事業者、国、地方公共団体等が異常事態の状況を把握し、必要に応じた緊急事態応急対策を講じなければならない。
手順1 原子力事業者が原子力施設の状況に関する情報収集並びに敷地境界線等及び施設近傍における環境放射線モニタリングを実施
手順2 原子力事業者が、異常事態について、国、地方公共団体等へ報告
手順3 原子力事業者からの報告に基づき、国、地方公共団体等が、環境放射線モニタリングを実施
手順4 国、地方公共団体等が、住民等へ情報を提供するとともに、原子力施設の状況及び環境放射線モニタリング結果に基づき次の緊急事態応急対策を実施
・屋内退避
・避難
・安定ヨウ素剤の服用
・飲食物の出荷・摂取制限
 なお、手順1においては、原子力事業者は、放射性物質の放出状況(量、組成、継続時間等)に関する詳しい情報が得られない場合でも、得られた情報は速やかに通報すべきである。
 また、独立行政法人原子力安全基盤機構、独立行政法人日本原子力研究開発機構その他の関係機関や他の原子力事業者等は、その専門家・要員及び保有する原子力防災資機材等を動員して、必要な場合には原子力災害対策に積極的に協力すべきである。
(3)緊急時モニタリングの実施
 原災法に基づき、原子力事業者から特定事象(原災法第10条第1項の規定に基づき原子力事業者に対して通報を義務づけられる事象をいう。以下同じ。)の通報があった段階で、国及び地方公共団体等は、緊急時モニタリングを開始する。その際、原子力規制委員会は、自らモニタリングを実施するとともに各分野のモニタリングの結果等を総括して管理する。
 なお、緊急時モニタリングの実施手法等の詳細については、従来の「環境放射線モニタリング指針」(平成20年に原子力安全委員会策定)等を参考にしつつ、今後、原子力規制委員会において検討し、本指針に記載することとする。
(4)緊急時における住民等への情報提供
 緊急時には、国、地方公共団体等は、住民等に正確な情報提供を迅速に、かつ、分かりやすい内容で行わなければならない。また、住民等に対する情報は、下記の項目に津いて定期的に繰り返し伝達すべきである。
・異常事態が生じた施設名及び発生時刻
・空間放射線量率の計測値等の周辺環境状況及び今後の予測
・各区域あるいは集落別の住民の採るべき行動についての指示
 情報発信をする国、地方公共団体等は、報道機関に対して積極的に情報伝達に関する協力を求めることも必要である。また、これらの情報提供に関しては、災害時要援護者及び一時滞在者等に十分に配慮しなければならない。さらに、発信する情報は関係機関の間で共有に努め、相互に齟齬のないようにするとともに、担当者は広報技術を習得した者が対応すべきである。
(5)防護措置
 原子力施設の周辺に放射性物質若しくは放射線の異常な放出又はそのおそれがある場合には、次の防護措置を実施しなければならない。
1) 屋内退避
 屋内退避は、住民等が比較的容易に採ることができる対策であり、放射性物質の吸引防止や中性子線及びガンマ線の遮へいすることにより被ばくの低減を図るものである。
 屋内退避においては、建屋の遮へい効果や気密性に考慮が必要であり、この点、一般的に遮へい効果や建家の気密性が比較的高いものがコンクリート建家である。ただし、屋内退避が長期にわたる場合又は見込まれる場合には、屋外大気の流入により被ばく低減効果が失われ、また一方で日常生活の維持にも困難を伴うこと等から、避難への切替えを検討する必要がある。
 なお、具体的な地域防災計画の作成に当たっては、気密性等の条件を満たす建屋の準備、避難に切り替わった際の避難先及び経路の確保等について検討しておく必要がある。
2) 避難
 避難は、住民等が一定量以上の被ばくを受ける可能性がある場合に採るべき措置である。放射性物質又は放射線からの放出源から距離を置くことにより、被ばくの低減を図るものである。
 緊急時には、緊急事態が発生した時点で、原子力施設からの放射性物質の放出による被ばくを回避するため、まずPAZにおいて即時避難を実施する。それに続き、確率的影響を低減するため、UPZにおいて原子力施設の状況及び緊急時モニタリング結果により把握できた周辺の状況に基づいた避難を実施する。
 実際の避難に当たっては、原子力規制委員会が把握した環境放射線モニタリング結果等を踏まえて、原子力災害対策本部が、輸送手段、経路、避難所の確保等の要素を考慮して避難の判断を行った上で、避難指示を地方公共団体を通じて混乱がないよう住民等に適切かつ明確に伝えることが必要である。
 その際、住民等に避難による肉体的・精神的影響が生じることから、一般の住民等はもとより、自力避難が困難な災害時要援護者に対する配慮が必要である。また、避難場所の再移転が避けられない場合は、可能な限り少ない移転となるよう、避難場所の事前調整が必要である。さらに、プルームから避難する際は、風下軸から一定の範囲にいる住民に対して、必要な措置を講じるべきである。加えて、無用の被ばくを回避するため、必要に応じて立入制限区域を設定することも重要である。
 なお、避難が遅れた住民や避難が困難となる住民等が、一時避難ができる施設については、今後、原子力規制委員会において検討し、本指針に記載する。
3) 安定ヨウ素剤の服用
 放射性ヨウ素は、身体に取り込まれると、甲状腺に集積し、取りこまれてから数年〜十数年後に甲状腺がん等を発生させる可能性がある。この内部被ばくは、安定ヨウ素剤をあらかじめ服用することで防ぐことが可能である。ただし、安定ヨウ素剤の服用は、その効果が服用の時期に大きく左右されること、また、副作用の可能性もあることから、医療関係者の指示を尊重し、合理的かつ効果的な防護措置として実施すべきである。
 安定ヨウ素剤の服用の方策は、原子力災害対策重点区域の内容に合わせて次のとおりとするべきである。
・PAZにおいては、原則として即時避難と同時に投与の指示を行い、住民等が避難所等において、医療関係者の指示の下、安定ヨウ素剤を服用できるようにしなければならない。
・UPZにおいては、避難や屋内待避等の指示がなされた段階で適切な服用ができるようにしなければならないが、具体的な手順については、今後、原子力規制委員会において検討し、本指針に記載する。
 なお、PAZ及びUPZいずれにおいても、放射性ヨウ素の集積が比較的早い子供については優先的な服用が必要となる点に留意しなければならない。また、安定ヨウ素剤の投与指示は、原子力施設やモニタリング結果等の情報を集約する原子力規制委員会が一義的な判断を行った上で、原子力災害対策本部を通じて、地方公共団体により所定の医療関係者に速やかに伝達されることが必要である。
4) 緊急被ばく医療
 緊急事態には、あらかじめ整備した医療体制に基づいてメディカルコントロールを行う。すなわち、モニタリング結果等の情報を集約する原子力規制委員会が放射線量等の情報を、原子力災害対策本部を通じて、医療機関や救急組織へ伝達する。情報を得た医療機関や救急組織は、搬送する患者の被ばく線量の推定又は測定とその搬送先について、適切かつ迅速に対応する。
 ただし、被ばく者の汚染検査、通信手段、受入れ医療機関、搬送手段等はメディカルコントロールの詳細と合わせて、今後、原子力規制委員会において検討し、本指針に記載する。
5) スクリーニング(被ばく者の汚染検査)
 スクリーニングによる汚染程度の把握は、緊急被ばく医療を円滑に行うためには不可欠であり、メディカルコントロールや被ばく治療の実施のためであることはもとより、急性放射線障害の回避、安定ヨウ素剤の投与指示の判断基準、汚染の拡大防止等のためにも実施しなければならない。
 汚染程度を把握するために実施するスクリーニングの方法とその検出量は目的に応じて異なるが、次のスクリーニングにおける課題については、今後、原子力規制委員会において検討し、本指針に記載する。
・スクリーニングの方法、体制、実施場所、環境、機器、設備の整備
・スクリーニングレベルの実用的な値の設定と適用
・スクリーニングの標準化と測定者の養成
・スクリーニングからの被ばく線量評価
6) 飲食物摂取による被ばくの防護
 緊急時には、飲食物のモニタリングを行い、経口摂取等による内部被ばくの低減を図らなければならない。その際、モニタリング結果等の情報を集約する原子力規制委員会は、原子力災害対策本部を通じて、飲食物のモニタリング結果等の情報を地方公共団体に知らせ住民等へ周知するようにする。
7) 防災業務関係者の防護措置
 防災業務関係者については、ある程度の被ばくが予想されることを踏まえた防護措置が必要である。具体的には、直読式個人線量計(ポケット線量計、アラームメータ等)、被ばくを低減するための防護マスク及びそのフィルタ並びに必要な保護衣を十分な数量を配布するとともに、必要に応じて安定ヨウ素剤を予防服用させること、後日においてホールボディカウンターによる内部被ばく測定を行うこと等が必要である。
 さらに、輸送手段、連絡手段の確保が必要である。
 また、防災業務関係者の放射線防護に係る指標は、放射線業務従事者に対する線量限度を参考とするが、防災活動に係る被ばく線量をできる限り少なくする努力が必要である。
8) 各種防護措置の解除
 各種の防護措置の解除に当たっては、当該措置が設定される際の基準、又は当該措置を解除する際の状況を踏まえて策定される新たな基準を下回ることを基本的な条件とすることが適切である。
 ただし、各種の防護措置の解除には、放射性物質又は放射線の放出が終了したとしても影響を受けた区域は汚染されている可能性、汚染物が影響を受けていない区域に搬出される可能性等があることから、関連する自治体との協議を行い、慎重な判断を行うことが必要である。また、必要に応じて、適切な管理や除染措置等の新たな防護措置を講じなければならない。
(6)核燃料物質等の輸送時の防災対策
 原子力施設内の事故だけではなく、原子力施設外における核燃料物質等の輸送時における事故により原子力災害が発生する場合もあるため、同様に対策を講じる必要がある。放射性物質の漏えい又は遮へい性能が劣化する等の事故が発生した場合には、炉規法に基づき、原子力事業者及び原子力事業者から運搬を委託された者の責任の下、救出、消火活動、立入制限区域の設定、汚染、漏えい拡大防止対策、遮へい対策等の緊急時の措置が行われなければならない。また、その際、事故発生場所があらかじめ特定されないこと等の輸送の特殊性を踏まえ、原子力事業者及び原子力事業者から運搬を委託された者並びに国が主体的に防災対策を行う。

第4 原子力災害中長期対策
(1)原子力災害中長期対策の基本的考え方
 原子力災害が発生した場合においては、事態の一定の収束がなされた後においても、すでに環境中に放出されてしまった放射性物質等への適切な対応が必要となる。このため、次の中長期的対策を、関係者間で十分に対話をしながら進めることが重要である。
(2)発災後の復旧に向けた環境放射線モニタリング
 発災後の復旧に向けて、次の判断等を行うため、国、地方公共団体等は、環境放射線モニタリングにより放射線量及び放射性物質濃度の経時的な変化を継続的に把握しなければならない。
・避難区域見直し等の判断を行うこと。
・被ばく線量を管理し低減するための方策を決定すること。
・現在及び将来の被ばく線量を推定すること(個人線量推定)。
 なお、中長期にわたって行う環境放射線モニタリングを有効なものとする観点から、関係機関の能力を効率的かつ機能的に活用するため、データの収集、保存及び活用について一元的なシステムを確立しなければならない。
(3)発災後の復旧に向けた個人線量推定
 中長期的な汚染状況において、国、地方公共団体等は、環境放射線モニタリングに加え、実際の個人の被ばく線量の推定を行い、それらの結果に基づいて、適切な防護措置と除染措置を実施しなければならない。
 個人の被ばく線量は、各個人の行動に依存するため、行動調査結果を環境放射線モニタリングの結果と照合して被ばく線量を推定するとともに、個人線量モニタリングによる実測値が必要である。これらの値を適切に組み合わせることにより、個人の被ばく線量についてより精度の高い推定を行うことが可能である。
(4)発災後の復旧に向けた健康評価
 原子力災害においては、放射線の被ばくによる健康影響に加えて、長期間の避難又は屋内退避、集団生活等が強いられ、平常な生活と異なる環境下における心身への影響を受ける。このため、国、地方公共団体等は、放射線との関連が明らかな疾患だけでなく、メンタルケア等も含めた健康状態を把握するための長期的な健康評価を実施しなければならない。これらの健康評価を通じて、健康への負荷を低減すると同時に、将来の潜在的な健康影響に関する住民等の不安を軽減していくことが必要である。
(5)除染措置
 国、地方公共団体などは、放射性物質の影響を受けた地域において住民等が通常生活にまた復帰できるよう、除染措置を講じる必要がある。除染措置を講じる際には、社会的要因を考慮した効果的な計画を立てることが必要である。
 また、住民等が除染措置等に参加する場合には、国、地方公共団体等が必要な情報や資材、指導・訓練、専門的アドバイザー等の提供を通じて支援すべきである。
 なお、除染措置に従事する労働者の職業被ばく限度については、関係法令等に基づき適切な被ばく線量管理を実施する必要がある。
(6)緊急時被ばく状況から現存被ばく状況・計画的被ばく状況への移行の考え方
 緊急時被ばく状況にある地域は、原子力施設からの放射性物質の放出が安定的に制御された状態となり、さらに、残留した放射性物質による被ばくが一定レベル以下に管理可能となった段階をもって、現存被ばく状況へ移行すると考えられる。
 一方、事態の一定の収束がなされた後においても、依然として緊急時被ばく状況にある地域と現存被ばく状況にある地域が併存することも想定される。また、緊急時被ばく状況から現存被ばく状況への移行は避難等の防護措置の解除判断の重要な要素であることから、現存被ばく状況にあることの判断においては、両状況の取扱いを慎重に検討すべきである。
 さらに、現存被ばく状況にあっては、できる限り早期に計画的被ばく状況に移行するための努力が求められる。
 これら3つの被ばく状況の取扱いとその考え方については、今後、原子力規制委員会において検討し、本指針に記載する。

第5 東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故について
(1)中長期対策について
 東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故においては、警戒区域及び計画的避難区域が設定され、多くの住民が避難生活をおくることとなった。平成24年10月現在までに、一部の地域について警戒区域が解除されるとともに、従来の避難指示区域が見直され、「避難指示解除準備区域」、「居住制限区域」、「帰還困難区域」の3つの区域が設定されたが、このうちの「帰還困難区域」については、特に空間放射線量率が高く、一時立入りをする場合には個人線量管理やスクリーニングが求められている。また、それ以外の区域についても、一時立入りをする場合のスクリーニング等が原則義務づけられていないものの、宿泊はできない等の制約もあり、空間放射線量率を下げるため除染措置を継続していく必要がある。また、複合災害に伴う長期間の避難、屋内退避、集団生活、ストレス等が、現在の健康状態に影響を与え、更に将来の潜在的な健康影響への懸念を大きくしている。
 したがって、東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故の中長期対策については、このような被災者及び被災地の実態を踏まえたきめ細かい対応を適切に講じていくことが必要である。
(2)原子力災害対策重点区域について
 東京電力株式会社福島第一原子力発電所については、平成24年10月現在、炉規法第64条の2第1項の規定による特定原子力施設の指定の検討も別途進めており、他の原子力施設と一律にPAZ及びUPZの導入等を行うことは必ずしも適当ではない。このため、原子力規制委員会としては、東京電力福島第一原子力発電所に係る原子力災害対策重点区域については、今後、同発電所のリスク評価等を踏まえながら更なる検討を進めることとする。

第6 今後、原子力規制委員会で検討を行うべき課題
 本指針の記述中で、今後詳細な検討等が必要とされる事項を次に挙げる。これらは、原子力規制委員会において検討し、その内容を本指針に記載していく。
1) 原子力災害事前対策の在り方
・防護措置実施を判断する際のEALやOIL、緊急事態区分の在り方
・UPZ外におけるプルームの影響を考慮したPPAの導入や、実用発電用原子炉に係る原子力施設以外の原子力災害対策重点区域の範囲
・避難が遅れた住民や避難が困難となる住民等が一時避難できる施設
2) 緊急時モニタリング等の在り方
・緊急時と平常時に分けたモニタリング計画の策定、OILの変更手順、線量評価の手順、事前準備の在り方
・SPEEDI(緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)の活用により、モニタリング結果に基づく放出源情報の推定や、事業者の拡散予測結果の確認・検証を行うこと等の方策
3) オフサイトセンターの在り方
・実用発電用原子炉に係る原子炉施設以外のオフサイトセンターの在り方
4) 緊急被ばく医療の在り方
・緊急被ばく医療設備、資機材等の詳細、複合災害における大規模な放射線による被害が発生した場合の関係医療機関の連携、緊急被ばく医療部門と災害医療部門との協力関係
・安定ヨウ素剤の投与の判断基準としてのEALやOILの整備、避難や屋内退避等の防護措置との併用の在り方、投与基準に関する責任の明確化、事前の配布や備蓄・補充等の手法等
・適用すべきスクリーニングレベルの実用的な値、使用すべき測定器やその方法の標準化、被ばく線量評価との関係等の技術的課題
5) 東京電力株式会社福島第一原子力発電所事故への対応
・東京電力福島第一原子力発電所事故に伴う被ばく線量の管理の実態等を踏まえた緊急時被ばく状況から現存被ばく状況・計画的被ばく状況への移行に関する考え方
・除染・健康管理等の在り方、リスク評価等を踏まえた原子力災害対策重点区域
6) 地域住民との情報共有等の在り方
・安全対策の透明性を確保し、住民の信頼を醸成するための情報を定期的に共有する場の設定等

第7 結び
 そもそも防災とは、新たに得られた知見や、把握できた実態等を踏まえ、実効性を向上すべく不断の見直しを行うべきものである。本指針についても、このような観点から、今後の検討結果に加えて、地方公共団体の取組状況や防災訓練の結果等を踏まえ継続的な改定を進めていくものである。